「お母さん、お腹が痛い」
突如見舞われた腹痛に女の子は母親に訴えた。
「あら、風邪かしら、病院に行って診てもらおうか」
母親に連れられ近所の個人病院へ行き、あっさり風邪と診断され薬を処方された。
ところが2、3日経っても腹痛は止まない。
「お母さん、お腹が痛い」
今度は病院を変えてみたが、そこでも風邪だろうとの診断を受けおしりに
注射を打たれた。
腹痛はそれでも治まらず症状はむしろ悪化している感があり、たまらず女の子は夜中に
母親の寝床に擦りより再度
「お母さん、お腹が痛い」と訴え、朝まで母親に体をさすられながら耐え忍んだ。
次の日早速、また別の病院へ行くことに。今度は外科だ。
血液検査で盲腸だということがわかった。
ただかなり進行して腹膜炎をおこしている、非常に危険な状態ですぐにでも手術しなけれ
ばならない、何故もっと早く連れてこなかったのですか、後一日遅ければ手遅れでしたよ。
母親は医者に叱られた。
非常事態の宣告を受けても、ただ口をポカンと開けながら不安や恐怖さえ感じる事もでき
ずにただこの先の母親と医者のやりとりを訳のわからぬまま見つめていた10歳の私。
明日になったら自分はこの世にいないんだ。で?
口をポカンと開けながら、いつまでも事の重大さに気付けずいつのまにか
消えていくだけ。
その病院はあいにくベッド数が足りず急遽近くの総合病院を紹介してもらい、すぐさま
そちらに向かい緊急手術を受けた。
夢を見た。
暗闇のトンネル、その先に見える煌々とした光。私は何故か見覚えのない犬に追いかけ
られながら光のある方へとひたすら走り続けている。
あの光に辿り着けば楽になれるのかな。
結局、トンネルの向こう、光の正体はわからなかったけれどもしかしたらあれは・・・と思う
と、この世界に留まらせてくれた何かしらの力ってものが作用している気がしてならない。
手術は無事に終わり、窓からは程遠い病室の片隅で約一ヶ月、ちょうど雪が降り積もり学
校が冬休みに入ろうとしている頃の話。
少々お粗末なお腹の傷跡はいつだってあの時の記憶を鮮明に引き出してくれる。
たまたま運が良かったとして、たまたまここまで生きてこれたとして、それでもいい。
そんな自分がこれから新しい命を繋げられる場面に望もうとしている。
大袈裟かもしれないけれど、私にとってはとてもとても重要なことなんだ。
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