春色に小さな背中が包まれて君と言葉を交わしたくなる
同じマンションでよく見かけるお婆ちゃんがいる。
小さくてちんまりしていて顔はクシャクシャでいつも杖を突いて歩いている。
その背中の傾斜角度推定55度。
どんな人生だったかは計り知れないけれど、大事そうに何かを背負ってる
それは彼女の人生そのもの?
愛嬌のあるその風貌は一度見かければ記憶に残る程で背中は曲がれど、
肌の色艶は良いし足元もしっかりとしている。
元々は小さな犬を連れて近所をよく歩いていた。
けれど知らない間に一緒に歩く犬の姿はなくなっていた。
それでも時にはスーパーのベンチで買ったばかりの
惣菜を広げて一人で食べていたり、駅とは逆にあるバス停を利用していたり、
とにかくテリトリーが広いのなんの。
ある日の残業帰り、夜20時過ぎ、駅の構内でそのお婆さんと擦れ違った。
そう、擦れ違った。ということは。
これからあのお婆ちゃんは何処かへ出掛けるということ。
いやいやいや。
寝る時間じゃないですか、お年寄りは。
そういった謎めいた部分もありつつ。
一度だけ「会話」にはならないけど接したこと事があって。
スーパーのレジでたまたま私の後にそのお婆ちゃんがカートをコロコロと押しながら
並びにやってきた。私は無言のままカートに乗っている買い物カゴをレジ台の上に
置いてあげた。そうするとお婆ちゃんが「いやぁ、すみませんねっ。」と一言。
その口調はとてもしっかりとしていたのを覚えている。
けれどあれはいつだったかを思い出せないでいるんだ。
暖かな陽気に胸騒ぎ、外に出掛けるのに心が躍る季節。
最近そのお婆ちゃんを見かけない。
どうしているかな。
あのお婆ちゃんのことだから、チャキチャキと歩いてはその辺で腰掛けて
周りの一切を気にせずに、ああ疲れた、と一休みしているのだろうな、
きっとそうだろうな。
いや、そうであってほしいんだ。
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